ジャックの塔を愛しみながら
臼井 洋司

"ジャックの塔”と親しまれている国の重要文化財、
横浜市開港記念会館の化粧直し(補修工事)が、
新世紀を迎えるべく進められています。
すでに街路側の外壁、屋根、彫刻などはその手を離れ、
年末までの予定で内部や中庭の修復が職人さん達の手仕事で繰り返されています。

この仕事は防水部分の経年劣化による仕上材の落下等が発端となりましたが、下地材まで隅々へ手を入れる状況です。
工法、材料など、限りある記録と現状態から想定し、確認し、提案し、検査を受けながら作業が進みます。

それらの補修工事の中で、市民利用施設としての新たな再整備がなされつつあります。
公会堂としての機能の取り入れ、バリアフリー化、それに現行法規対応が盛り込まれています。
歴史的重要文化財として、形態保持と機械化の取り組みに、参加者全員が気を使い知恵を使い進められています。
特に、講堂のプロセニアムアーチ(舞台廻りの彫刻をほどこしたアーチ)は、かすかに残る金色をふたたび取り戻し、往時の華やかさを市民にプレゼントしてくれるでしょう。
私達は今、新たな建築物を造る以上の感慨をもってこの仕事に就いています。

それにしても昔日の仕事の丁寧さと創作力のたくましさに感嘆するばかりです。
たった80余年前の仕事なのに、この隔たりは数百年もある様に錯覚します。

昨今、やっと建物の長寿化がさけばれ始めました。
現代建築の短命さは諸外国と比較のしようもありませんし、建築の生命感の隔たりはそのままです。
この仕事中にも、横浜の開港時を思い巡らす2つの建物がその生命を閉ざすべく解体されています。
旧ヘルムハウスビルであり、キッコーマンビルです。
誕生するものより失うものが多すぎる、このような時代の中で我々は何をなすべきか、新世紀を間近に控え、叩頭してしまう毎日です。